1988年8月14日。
この日からは札幌を離れ、道内一週旅行に旅立つ。
最初に向かう目的地は稚内。言わずと知れた日本最北端の駅である。
そのために僕が選んだ列車は夜行急行利尻。出発は 21時57分だ。
つまり、すっかり日が暮れてからゆっくりと準備をして札幌駅に向かえば十分なのだが、
わかっていても、ずっと温めてきたこの計画の実行にハートは疼きまくっていたのだ。
そのようなわけで、夕方まだ明るいうちから豊平区美園のアパートを出発し、
札幌駅へと自転車を走らせ始めてしまった。
◆手持無沙汰の札幌駅から・・・
さて、札幌駅に着いてはみたものの、することは何もない。
食事をしながら4時間も潰す気は毛頭ない。
じゃぁまた短い旅をしよう!ということで、下車印を増やすことを目標にして、
千歳空港駅までいくことにした。
時刻表を見ようとしたその時、ちょっとタイミング良すぎと思えるのだが
「急行ちとせ号」が目の前に来て、それに乗ることができた。
北海道ワイド周遊券バンザイ!
かなりの混雑だったが窓際の席を取れたので、外を眺めながら千歳空港を目指した。
新札幌駅を出るともう外は暗くなっていた。降り出して来た雨のせいかな。
千歳空港駅への道中、特急北斗号とすれ違い、キハ183系貫通型車両を見た。
そして、僕が見たかった車両、アルファコンチネンタル・エクスプレス号ともすれ違い、こうして僕のボルテージは一気に上がった!
こうして、僕の時間つぶしの旅は興奮のうちに進み、
冷めやらぬまま札幌駅に戻ってきた。
◆夜の札幌駅での1時間半
それから1時間後。僕は札幌駅の跨線橋からホームを眺めていた。
これから始まる稚内への旅の直前のひと時である。
駅構内にある手作りパンの店で買ったパンをほおばりながら。
お好み焼きパンとホイップクリームのパンというミスマッチなふたつ。
そんな僕に1人の人が近づいてきた。酔っ払いのおじさんである。
「よぉ、兄ちゃん、こんな時間にどこまで行くんだぁ」。
「あ、あのぅ、稚内です」
「何ぃ、稚内?おぉそぉかぁ、わしは今から横浜に帰るっちゅうのに・・・」
そんなことは僕の知ったことじゃない。
しかし、その人は続けて言った。
「おぉそぅだ。稚内にどうやって行くかわかっとるんか?フリーパス使うんだぞ」
「あ、はい、わかってます」 (いや、そんなものは知らないが)。
「きぃつけていくんだぞ」
「あ、はい。どうも・・・」
なぜか人通り少ない跨線橋で酔っ払いの相手をさせられてしまった僕だった。
◆まさかの時刻変更?
さて、時刻は21時30分を回ったところ。
ホームに響いた案内放送に耳を疑った。
「急行利尻、稚内行き。間もなく発車いたしま~す」
「えぇ!? うそうそ!21時57分発やろ!」
何がどうなったのかよくわからないまま、うろたえながら切符を探す。
こういう時ほど、すぐに出て来なくて焦る・・・。
「あった!」
発車時刻は間違いない。でも発車のベルが止まり、汽笛が響いた。
僕は輪行袋は1番線につないだままだからすぐにホームにも行けず、
なすすべもなく跨線橋の上で、列車が出ていく音を聞くばかり・・・・。。
ガタンゴトン・・・列車がホームを出て行く。
「どうなってんねん?」と思い、時刻表で再確認すると、
この日は臨時急行利尻81号が設定されていることに気付いた。
ようやく胸をなでおろし、張り詰めた緊張感が一気に解けた。
冷や汗で一気に涼しくなった瞬間だった。
“本物”の利尻号のホームへ
でもそろそろ乗車できるように準備をしようということで1番線ホームへ。
そして結んでおいた輪行袋を手に取り“本物の”急行利尻号乗車ホーム、
4番線にゆっくりと向かった。
夜の札幌駅4番線ホーム。すでにブルーの車体の急行利尻が停車していた。
時刻は21時50分。発車まであと7分ある。
ここで、先日の急行はまなす号では確認し忘れていた部分に目がとまった。
「おぉ、これが14系500番代かぁ」
この車両は北海道仕様のため、乗降口の扉が折り戸ではなく引き戸なのである。
当時の寝台列車には珍しい、雪の挟み込み対策の寒冷地仕様の構造。
列車に乗ると僕は輪行袋をデッキの手すりにくくりつけて、車内へ進んだ。
手荷物のリュックサック、カメラバッグなどをB寝台に置きに行った。
出発まではまだ5分以上あるので腰を落ち着けるより、再度ホームに立ち、
最北の夜汽車の旅が始まる前の静寂を楽しんだ。
そして出発まで残り2分。
余裕を持って列車に乗り込んだちょっと後に案内放送と発車のベルが響く。
◆急行利尻号、出発!
夜10時を目前にした頃、急行利尻号はゆっくりと動き出した。
B寝台車両の通路で後ろへと流れ行く札幌駅を見送ったあと、
自分の寝台に戻りその感触を確かめるように寝転がってみた。
考えてみると寝台車は5年ぶり。
ただ、この上段寝台は窓がなくて外の景色を見られないという欠点がある。
だから寝台の感触を味わうのもそこそこにして、通路に出た。
そしてそこにある補助イスを出して座り、景色を眺めることにした。
気がつくと早くも札幌の市街地をぬけて郊外に出ていた。
遠くに見える街灯の明かりがゆっくり後ろへと消えるのと、
突然現われては飛び去る踏切の灯りの残像を楽しみながら旅は進んだ。