竹野駅での記念撮影を終えて天文気象部一行はベンチに腰を下ろした。
そして、宿泊予約した僕が弁天浜の民宿に公衆電話からかけた。
「もしもし、大阪の牧野高校天文気象部ですが。お迎えの車をお願いできますか?」
「あれ、そうですか。さっきお迎えに行ったはずなんですけどね~
あらあら、今ちょうど車が駅から帰ってきましたワ」
なんと、僕たちが到着していることに気付かなかったらしく、
同時に降りた、他の泊り客だけ乗せて僕らを置き去りにして行ってしまったらしい。
仕方ないのでもう一度お迎えをお願いした。
さて、その間に僕と吉田先輩と享部員の3人は自転車で行こうということで
輪行袋をほどき、自転車を組み立て始めた。
やがて到着した車にビックリ。マイクロバスでなく7人乗りの小さなワゴン車だった。
運転手さんと先生2人、そして部員は4人しか乗れない。余りが3人・・・。
これなら、たとえさっき僕たちに気付いてくれていたとしても、
最初からほとんどが乗れなかったということではないか。
「なんや~、ピッタリやん!」
つまり時間を無駄にした訳ではなく、なるべくしてこうなったのだと皆、納得した。
揃いも揃って“お人好し集団”!なのである。
やっちまった!と焦っていた運転手さんも、ホッとした顔をしていた。
ワゴン車は竹野駅から駅前通を海に向かって進み出した.
僕と吉田先輩、そして、とおる部員の自転車も勢いよく走り、
ワゴン車を追い越さんばかりの勢いで走った。
道の左のグランドで校庭では少年達が野球をする姿。
木造校舎の中学校の雰囲気が何だか昭和40年代のように見える。
やがて右側に竹野川が道路と並ぶ。
東町にわたる橋があり、向こうに中心街が見える。
そちらは竹野浜があり、隔てられた世界の海水浴客たちがいるという印象だ。
僕らは橋を渡らず西町へ直進。ワゴン車はゆっくり路地を進んだところで停車。
自転車部隊もすぐ後に到着こうしてついに僕たちは弁天浜に着いた。
みんなの荷物と重い天体望遠鏡などをワゴン車から降ろし、2階の部屋に案内された。
荷物を置いた部員たちはいきなりゴロ~ンと転がった。
● 特急はまかぜ 久美子部員を迎えに竹野駅へ
僕と吉田先輩ととおる部員は自転車に乗り再び竹野駅に向かった。
それは特急はまかぜに乗って神戸からくる久美子部員を竹野駅で迎えるためだ。
僕たちが竹野駅に着くとほぼ同時にキハ181系の重厚なエンジン音が響いてきた。
そうしてたくさんの乗客が降りた。さすがに海水浴シーズン。
大勢であると同時に、いかにも海水浴客です!という雰囲気の利用客が
いっぱいの中、人の波にまぎれて久美子部員が降りてきた。
「お待たせしました~」と言って出てきたかと思うと、
「楽しかったですよ~。特急!」 と予想外のひとこと。
え?もしかして鉄子か?と思いつつ話の続きを聞いた。
「玄武洞でね~、車内放送がかかってね~、解説してゆっくり走ったんですよぉ」
へ~、そんなことしてくれるのか・・・ 未知の世界のサービスの話に驚いた。
竹野駅から弁天浜までは歩いて行けぬ距離ではないと分かったので、
自転車を押しながら自転車部隊と久美子部員と4人で歩いて民宿に向かった。
その道中「もしかして、隠れ鉄道ファンか?」と尋ねると、
「まさかぁ、なに言ってるんですか~、全然興味ないですぅ。旅行は好きですけど」
なるほど、鉄道旅行マニアではなく、単なる旅行好きというだけだったのか。
まあ、その方がいろいろ僕のコレクションに協力してもらえるかもしれない。
そんなことを思いながら歩いて民宿に向かっていった。