FASTECH360の簡単な解説
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1990年代後半になると、新幹線はスピードの追求をしなくなったように見えたが、東北新幹線では新青森までの延伸、さらに北海道への直通運転が現実のものになり、JR東日本では時速360キロ運転を目指した「Fastech360」を開発し、2005年から2009年にかけて試験を行った。愛称の由来は高速「fast」、技術「technology」を組み合わせた造語だ。「360」は目標とする最高時速360Kmである。
「はやて」と「こまち」の併結運転を踏まえ、車両はフル規格のE954形(Fastech360S)と新在直通用のE955形(Fastech360Z)の2形式が開発された。「S」は新幹線を意味し「Z」は在来線を意味する。
「Fastech360」シリーズの2形式が目指したものは「どこまでスピード記録を伸ばせるか」ではなかった。目標速度は時速360キロと定めた上で、その速度域で発生するトンネル微気圧波や騒音、乗り心地、制動距離への対策のため、現車試験が必要だったのだ。当時の東北新幹線の最高時速は275キロ。高速試験用に改造したE2系で362キロの記録があり、スピードを出すことはできるが、営業運転となると課題は避けて通れない。
改良箇所は細部にまで及び、低騒音パンタグラフやパンタグラフ遮音板、車両間の全周ホロ、吸音式の床下構造、低騒音機器などが搭載された。さらにトンネル微気圧波を抑制するため、先頭車両はロングノーズ化された。
E954形は東京寄りの1号車に「ストリームライン」と呼ばれる先頭形状を採用。営業用の新幹線車両で言うと、E5系よりもE2系に近い形状であった。一方、盛岡寄りの8号車は「アローライン」と呼ばれる形状で、E5系とE4系を融合したようなデザインだったが、それまでにない長いノーズがインパクト抜群だった。
ミニ新幹線タイプのE955形は前後とも「アローライン」の形状を採用したが、ノーズの長さが13メートルと16メートルと異なり、3メートルの差異がどんな違いを生み出すのか、データを採って比較が行われた。
また、客室の快適性を確保しつつ可能な限り車体断面積が縮小され、フルアクティブサスペンションの搭載や動揺防止装置の改良、車体傾斜装置の搭載により高速でも乗り心地の良い車両が目指された。
最大の課題であるブレーキ性能は、時速360キロでも275キロと同等の制動距離(非常ブレーキの停止距離)を確保するため、ブレーキ装置が改良された。さらに、屋根に空気抵抗増加装置が搭載された。これは当時、「ネコ耳」と呼ばれて話題になったので覚えている方もおられるだろう。
これらの研究開発が一定の成果を収め、現在の東北新幹線の時速320キロが実現しているのだ。しかし、ここで「おや?」と思われる方もいるだろう。目標だった360キロには届かなかった。つまり「もうワンランク上の対策」が必要だったのである。
「FASTECH 360 S」の塗色は車体の上半分が「イーストグリーン」、下半分は「パールホワイト」、そして帯は「シルバーメタリック」だった。
「イーストグリーン」の名はJR東日本のコーポレートカラーに由来する。E5系の常盤グリーンと同一色と思われるが、E5系のそれに比べてやや暗めに見える写真が多い。それはもしかしたら車体に施された帯の色がピンクでなくグレーだからかもしれない。
いずれにしても、この車両で得られたデータはE5系・E6系にしっかりと反映されて現在の東北路の鉄道輸送を支えている。
ひいては、次世代の高速試験車両ALFA-Xにも活かされていると言って間違いない。