1987年4月。
僕も高校2年になった。
真っ先に考えたことは、「夏の合宿旅行はどこに行こうか」ということ。
表向きの条件には、
●天体観測のため、十分な暗さを確保できるところ。
●低い位置の星も見える所 → 水平線 → 海。
●1泊2食付で5,000円以内で泊まれる宿。
といったテーマを掲げて候補地をリサーチし始めた。
そう、これは表向きの条件である。
実際には部員たちからの「裏」の要望も強く、
海水浴ができる砂浜があることが絶対条件だ!。
昨年夏の合宿地、三重県伊勢志摩の大王崎は、泳げそうで泳げない所だった!
と、回想ブーイングが起こっていたものだから、今回こそ!という圧力が強い。
はたして、そんな条件をクリアする場所が手ごろな範囲で見つかるのだろうか?
そして、僕のもう一つの条件「鉄道旅行の味わい」も叶えられるのだろうか?
海水浴ができる砂浜・・・・。
まがりなりにも天文気象部である。
「いったいみんな何しに合宿に行くんやろ」
そう思っていた僕だが、よくよく考えてみると僕も皆とそれほど違いはなかった。
と、色々な思惑が交錯する中、願望すべてが一致する所があった!
それは兵庫県、竹野町。日本海に面した静かな街。
海水浴とカニの食べ放題で冬のシーズンには賑わう街。
あの「カニカニはまかぜ号の地」である。
鉄道では、山陰本線城崎駅(現:城崎温泉駅)の次の駅、竹野駅が中心で、
そこから降りて海まで(車なら)すぐの所にある弁天浜の宿が条件をクリアした。
あとは宿の予約で確保ができるかの問題だけと思われたが・・・。
ちなみに、僕の願望をもう少し詳しく言うと、
まず、まだ乗ったことがない京都発の山陰本線での旅と、
いつまで現役かわからない旧型客車に乗る事だ。
合宿地の案はみんなの意見を反映した「竹野町」に全員一致で決定!
と、そう思われたのも束の間、思わぬ障害が発生した!
それは、今年から新しく天文気象部の顧問になったS西先生。
「あぁ~、この先生の事まだよく分かってなかった~」
確かにそうなのだ。この先生についての「傾向と対策」を考えていなかった!
S西先生は言う。
「あのなぁ、山の上の方が空気が澄んでて綺麗やし、
星を見るのにも空気を吸うにも景色を見るにもその方が絶対ええと思うで。」
そう、S西先生は実は根っからの山男だったのだ。
う~ん、確かに先生の言うように、空気が澄んでいるというのは一理ある。
逆に海の場合・・・もし仮にイカ釣り漁船などが出ていたら海岸はアウト。
しかし、みんなは「絶対条件だ」といって、海水浴を切望している。
そして、僕は山陰本線と旧型客車の鉄道旅行を切望している(絶対条件だ!)。
どうするか・・・・。
あ、そうだ!山の不利な点を指摘しよう!
「あの~、先生!山は天気がころころと変わって、突然の雷雨とかもありますし、
安定した天体観測がちょっと難しいと思いますよ」
僕がそういった途端、みんなも「そうそう」と大合唱になった。
結局、「そうかぁ。今年はそういうことにしようか」とS西先生が
寂しそうに身を引いてくれた。 背中には哀愁が漂っていた。
◆計画はさらに進む
S西先生の哀愁漂う背中を見てみぬふりをし、僕らは計画をさらに固めていった。
民宿(名前をどうしても思い出せない)にも早々に電話予約を入れることができた。
さて、次に交通手段を煮詰めていかないといけない。
しかしここは、僕の頭の中では出来上がっており、
ローカル線マニアの谷川部員が異議を唱えるはずもなく、
京都からの山陰本線ルートにあっさり決定した。
そして乗る列車は、ディーゼル急行丹後1号をチョイスした。
まだ山陰本線の保津川沿いの線路が切り替わる前だったから、
今で言う嵯峨野観光鉄道の路線を走るあの絶景だ。
後になって「電車でGO!」の第1弾にも登場したあの景色!CGじゃないぞ。
そして、城崎から一区間ではあるが、ついに憧れの旧型客車の旅。
DD51が牽く、あの懐かしい香りがする車両に乗ることになる。
・・・と、そんな矢先、1年生の久美子部員がこんな事を言った。
「先輩、実はうちの父が仕事の休みの時に里帰りするんですけど、
それが、ちょっと困ったことに合宿の直前になったんです」
おぉ、難題勃発。
宿の予約ほか、色々なことが煮詰まってきたから日にち変更はもう無理。
このまま来れなくなるのか・・・
どんどん計画が進もうかという時に起きた予想外の水差し。
「ところで、お父さんの里っていったいどこなん?」
「神戸です」
・・・・・ん?神戸?
「なんや。めっちゃ近いやん。それやったら直接来たらええやん」
「でもみんな京都から乗るんでしょ。神戸から京都まで行くの大変じゃないですか」
「だから直接って言うてるやん。同じ兵庫県なんやから半分進んだようなもんや」
「えっ?神戸って兵庫県なんですか?神戸県じゃないんですか?」
何とも間抜けなやり取りをした後、時刻表で播但線の載っている地図をみせた。
「わぁっ、近いっ!」
「だから近いっていうてるやんか・・・。それにここは特急も通ってるんやし」
ということで、神戸から直接来る、特急はまかぜ に乗ってくる方法を提案した。
その後計画はふたたび順調に進み始めた。
ちなみに、その特急はまかぜ は僕たちの急行丹後と旧型客車列車という計画の、
到着後30分程で竹野駅に到着するという、グッドタイミングだった。
「おう、ばっちりじゃぁ」