⇒ 前頁 【1988年8月19日】札幌駅での最後の時間、そして北斗星
1988鉄道旅行★北海道の目次
寝台特急北斗星・出発!
少し高い上段ソロの窓からホームを見下ろすと見送りの人たちがたくさんホームにあふれていた。それまでにも寝台列車には何度となく乗車してきたが、窓がこの位置にあるものは初めてで、ホームの屋根が視界に入る不思議な感覚があった。
僕は出発の前にもう一度だけホームに降り立った。思い出が詰まった北海道を踏みしめてこの10日間の思いを確かめるように。ありがとうの思いをいっぱいに、列車に戻った。
自分の部屋である8号室に戻って腰を下ろした。
「ん?何か見慣れないスイッチがあるぞ。」 そう思って触ってみると音楽が流れた。なんと、オーディオ装置があって4チャンネルで音楽が聴けるようになっているのだ!クラシック、洋楽、フォークともう一つは不明。僕はフォークを選び、谷村新司の曲が部屋を包み込んだ。
「3番線の特別急行列車北斗星2号上野行きはまもなく発車です。」という放送を2度繰り返し、ベルが止まった。いよいよだ。出入り口に一番近い8号室はなんとなく乗降口ドアの動きも感じられる。「あ、ドアが閉まったな。」
「わ~~~れ~は~行く~~~~、さらば~~! ほっ、か、い、ど~。」(「すばる」に合わせて。)
こうして札幌駅を出た北斗星2号はゆったりと進み、12回目の豊平川を渡った。
夢のような個室寝台の旅
個室寝台!
。小学4年生(1980年)くらいから鉄道に興味を持ち始めた僕にとっては「個室」なんて「はやぶさ・富士・あさかぜ・出雲」くらいにしか連結されていない特別なもの。そしてA寝台の高い料金!という印象があり、まさに高嶺の花だった。
ところがなんとB寝台に「個室」が登場し、同じ料金で乗れるというではないか!それを知った時のびっくりと乗りたい願望爆発はただ事ではなかった。寝台の幅こそ当時のA寝台個室よりやや狭いものの、格段に向上したセキュリティー、自分の空間という安心感はまさに夢のようだった。
このきっぷに「固執」してGETするまでには10時打ち撃沈、十数回のキャンセル確認があって乗車日前日にようやく手にしたという涙ぐましい努力。これらすべてが一夜の体験を何倍にもスペシャルなものにした。
これまでのどの寝台列車とも違う!
列車はまだ札幌の町中を進んでいる。「世界食の祭典」という看板が見え、あれ?こんなのあったっけ?と思ったが、それもそのはず。いつもこのあたりを通るときには苗穂の車両基地を見るために逆サイドに目をやっていたことに気付く。
「そうか、個室寝台って片側しか見られない造りなんだな。」今さらながら、当たり前のことに気付く。確かに、開放型寝台だったらカーテンを開けたらどちらの窓も見えるのだ。まぁ、こうして「与えられた景色」に集中するのも悪くない。今まで気づかなかったことにいろいろと気付くことが出来るかもしれない。
列車はやがて郊外の雰囲気になった。上野幌を過ぎた頃、食堂車に行き「シャワーカード」を購入した。後のサンライズ出雲などの285系ではシャワーカードは自販機で販売しているが、対面販売となっていて、時刻の指定も行われ、A・Bの2室あるシャワーのどちらなのかも記載される。
ここで一瞬疑問に思ったのが、「何で1・2号しか書かれていないんだろう?」ということだ。季節列車を含め3往復、6号まであるはずなのに。
答えは簡単だった。それはJR北海道の担当が1・2号、5・6号がJR東日本。そして3・4号は両社で半々の運行だがまだモノクラス編成でシャワーもない状態だったからだ。というわけでこのデザインのシャワーカードは2号に乗ったからこそ手に入ったものだと分かり、とても嬉しかった。エンブレムも素敵だ。なお、シャワーセットというものがあってそれも買おうか悩んでいたが、すでに売り切れていた。不思議なもので、悩む必要がなくなり内心ほっとしていた。
まさかの短距離利用者!?
シャワーが18:00ということで、自分の部屋に戻ってシャワーに必要な持ち物を取りに行くことにした。いくらかの着替え、タオル、そして石鹸はないが頭を洗うシャンプーはあるのでそれで全部済ませよう。そしていくらか洗濯物も洗えるかな。・・・8号室(自室)に着いた。
ここで僕はあることに気付く。それは車両の客室の端に自室があることから、ドアの前に立つたびに客室通路の自動ドアが開いてしまうのだ。まぁ問題ないと言えば問題ないのだが、何とも言えない罪悪感にも似た感覚を何度となく覚える一夜ではあった。
さて、シャワールームはというと、実はB寝台個室ソロがある同じ車両に備わっていて、ロビーカーにもなっている。言ってみれば「おかえりモネ(NHK朝ドラ)」で出てきた、モネの東京での銭湯兼シェアハウスのような感じか。たとえがちょっとおかしいか?とにかく、そんなロビーカーで窓の外を眺めていると千歳空港駅に到着した。
「え?ここでもう降りる人がいるの?」と驚く。まだ18:00にもなっていないのだから約30分で?寝台料金は?など、いろいろ???が沸いてきたが、時刻表を見直して納得した。この列車は東室蘭まで立席特急券で、函館まで指定席特急券でご乗車できます。とかっこ書きされていた。つまり、道内輸送の一端を担うことも期待され、例えば函館から首都圏への寝台利用者の不使用区間も有効活用されるということになる。もっとも、そういう短距離利用者に個室を使われたのではその後に使う人はたまったものではないがそんなことは起こらないという。
17:52。 停車時間も短く北斗星2号は出発した。
初めてのシャワー体験
初めてのシャワーと言っても、もちろん「列車内での」ということである。実家にもシャワーくらいはついている。しかし、時間制限6分というのはなかなか感覚がよくわからない。この6分は長いのか短いのか・・・。洗濯なんて余裕はあるのか。
時間になってシャワー室に入った。シャワーカードはテレホンカードのように差込口に入れるようになっている。バチン!というパンチ音が聞こえて穴が開いたカードが出てきた。
書かれている説明に目を向ける。「なになに?。ボタンを押している間お湯が出て、(ふむふむ)もう一度押すと止まるのか。時間のカウントダウンもちゃんと止まってくれるんだな。よし。」
まぁとりあえずサササ~っと体と頭を洗うとするか。シャンプーなのでまずは頭から洗うが、頭を濡らすだけだから5秒で済ます。
「ひゃぁ~」。
あったかいお湯が出てくる前のやや冷たい水が出てきただけだが今は夏、気にすることもない。残りは5分55秒。泡だらけになった頭を洗い流せばよいのだが、「体と一緒に流した方がいいか」と思い、そのままシャンプーを追加して体を洗い始めた。ただちょっと寒い。シャンプーがミント入りの爽快タイプだったところも寒さに拍車をかけた。
※この頃同級生の間で流行っていたTOPBOYというシャンプーだった。
こうして頭からお湯をかけて一気に流し、すっかりきれいになって残り時間を見るとまだ4:12。ここまで節約する必要はなかったということだけは実感できた。ブルブルしながらも残り時間で少しの洗濯もシャンプーを使って済ませ、もう一度体全体にお湯をかけ、ルーム内の泡を流して出ることが出来た。ちなみに、それでも時間は残っていた。それにしても、寒かった。身体をしっかり拭いて着替え、自室に戻ってしばらくエアコンをOFFにして体温の回復を待った。
列車は苫小牧を出発するところ。そして誰かがドアをノックした。