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【1988年8月18日】行き残した地、えりもを目指せ!

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日高本線キハ22 鉄道旅行記

慌てて乗り換え、国鉄に乗るぞ!?

札幌目前で目覚めて焦りまくっていたのには大きな訳があった。
それは、到着後の乗り換え予定が8分の余裕しかなかったからだ。

そんなに急いでどこへ行く?といった感じではあるが、僕のお目当てはキハ82系。臨時特急北斗82号である。

もうすっかり時代はキハ183系に移り、もはや定期運用は持っておらず乗れるチャンスはごく限られていたキハ82。しかも、JNRマークがまだ車体に輝いており、裾のしぼれたヘッドマークが残る姿をどうしてもこの目に焼き付けておきたかったのだ。

急行まりもが到着した3番線ホームから跨線橋を渡って7番線ホームへ。

急行まりも(画像は翌日のもの)

ものすごい人数が乗車していたが、ここだけは絶対に遠慮するわけにはいかない!と、僕も列車に乗り込んだ。
輪行袋に詰めた自転車が破損しないように身体いっぱい使って守りながら。

こんな様子では乗り心地レポートなどできるはずもなかったが、それでも古き良き時代のこの車両に乗車したという事実だけは残った。

途中の停車駅は千歳空港、そして下車する苫小牧だけ。55分間の乗車は汗だくでジムのトレーニングの様だったが、苫小牧駅に着いた時には守り抜いた達成感のような不思議な気持ちで、走り去るキハ82系特急北斗を清々しく見送った。

キハ82系特急北斗

苫小牧駅

僕はこの駅でもスタンプを押しておきたいと思い、22分の乗り換え猶予を活用して改札に向かった。スタンプは改札の外にあったため一旦途中下車。GETしたし、さぁホームに戻ろう!と思ったその時、「改札はまだ始まってませんよ」と、驚きのひとこと。北海道とはこういう所なのである。

改札が始まり、僕は次の目的地に向かう日高本線のホームへ。
ここでもキハ22形が乗客を迎えてくれる。
僕が乗るのは様似駅への直通ではなく、静内行き635Dで8:17発である。

出発までの間、この日の計画をまた練ってみた。
様似駅まで行くには、この列車の次の苫小牧発様似行きに乗らないといけない。
言い換えれば、この列車の終点である静内駅で乗り換えても良いし、それまでのどこかの駅で降りても同じ結果になる。
そうであれば、「二度と降り立つことの無い様な駅」で降りてみた方が面白いんじゃないかと思い、どこか適当な駅を見繕ってみた。
僕が目を付けたのは、駅前からバスが出ているらしき「厚賀駅」。田舎過ぎない田舎駅。そんな姿をイメージして決定した。

日高本線を行く

苫小牧駅を出た列車はトコトコとのんびり走り出す。
7分くらい室蘭本線と並走し、大きく右に曲がって南下を始めた。

海に近いところを走りながらどんどん南下していくのを感じる。
今回の北海道旅行でまだ向かっていない地域を制覇していくような、そんな快感を感じながら。

ほんの少し海から内陸に入り、開けた街にやってきた。鵡川駅だ。
この駅では4分の停車なのですかさず下車印をもらいに行く。

ある程度賑わいを見せて走っていたこの列車だが、日高門別駅を出ると一気に静かになった。
僕は見知らぬ土地、厚賀で降りる時をちょっとワクワクしながら待ちつつ、車窓を眺めた。

厚賀駅

9:39。定刻に列車は厚賀駅に到着した。
さて、どんな駅なんだろう?

この駅は素敵な木造駅舎の民間委託駅だった。駅前にはちょっとしたロータリーがあり、小さな集落の中の中心駅として機能していた。

僕はもう自転車での散策をする気力を残しておらず、輪行袋はただ運び続けるだけの大荷物となっていた。駅売店のおばさんしかいない駅舎内に輪行袋を置いたまま、少し駅前を歩いてみることにした。
材木置き場があり、海の香りと材木の香りが混じって流れてくる、穏やかな街。こじんまりと営業する新聞屋さんが、昔の街のにぎわいの生き証人であるかのようにたたずんでいる。

見知らぬ駅で降り立つというのはよほどの時間的余裕がないとできないことだが、ほとんど誰も持っていないような経験をする、特別なひとときだと思う。特に、そこに人がいるとさらに輝いたひとときになる。
僕は散策を程々にして厚賀駅に戻り、売店のおばちゃんとしゃべってみようと思った。
そのきっかけとして牛乳を一本買った。

僕はおばちゃんに駅のこと、町のことなどいろいろと尋ねたりしておしゃべりをした。そして駅舎内に貼られているポスターのことが話題に出たとき、「好きなポスター、あげるよ。どれかほしい?」と言ってくださった。
普通なら荷物になるので・・・と遠慮してしまうところだが、もうすでに自転車を組み立てる気がなかったので輪行袋に入れていけるということで、ありがたくいただいた。
朱鞠内湖のPRポスターと、一本列島のポスターだった。

さて、こんな田舎の駅だったが、面白いことに4人もの人がやってきた。おじさんおばさんたちの集団だったが、切符を買う様子もなく売店のおばちゃんとひとときの談笑。そして数分のにぎわいの後みんな去って行った。どうやら近所の工場か何かで働いている人の休憩時間だったようだ。

数分後、中学生くらいの女の子がやってきてベンチにちょこんと座った。乗客かなと思ったが、少し経って別の女の子が「遅くなってごめ~ん」と言いながらやってきて、一緒にどこかへ消えていった。つまり、ただの待ち合わせだったようだ。
こうして鉄道の利用者ではない人たちの姿を見たわけだが、これはこれで良いのだと思う。待ち合わせでも井戸端会議でも。存在する意義がある建物であり続けてほしい、そんな思いがした。

厚賀駅から様似駅、襟裳岬へ

しばしの休息の後、僕は再び日高本線の列車に乗ってさらに南下する。
11:18発、637Dで、静内、浦河を経て様似駅まで直行である。

列車が来る時刻の5分前になった。
すると、今度こそ本当の乗客たちがやってきた。
5人の団体さん、静内まで行く人たちだった。

2両編成の列車は「何もない。がある厚賀駅」を出発し、トコトコと走り出した。
つい先ほど歩いてみた駅前の道がどんどん後ろに遠ざかっていく。

しばらくして静内駅に到着した。
先ほどの団体さんが列車を降りる。
僕も7分の停車時間を楽しむため降りてみた。
この静内駅にはお手製の荒彫りのスタンプがあり、公認スタンプも出来たての様だった。

東静内駅を過ぎたころ、正午になった。
おなかがすいていることを痛感しながらも先を急ぐ。
とにかく、今度列車を降りてしまうとまた2時間待ちなのである。
空腹・空腹・・・・
しかし意識が遠のくかのように眠り始めてしまった。

日高本線キハ22
気付いたら13:00を目前にした浦河駅。
ここまで来ると日高本線の旅も残すところ25分。
海を見下ろす素晴らしい景色を最後まで眺めようと、また今さらながら目がスッキリ冴えてきた。

窓から顔を出したりしながら、「あの先端がえりも岬かな」なんて思っていたら、その先端にはあっという間に到着してさらに遠くの先端が見えてくるといった具合でどんどん進んでいった。

青い空と白い雲。そんな「夏」を絵にかいたような景色とキハ22のオレンジ色とのコントラストが僕の旅路を彩っていた。

13:25。 146.5kmに及ぶ鈍行の旅はここで終了。様似駅で僕を待つのはJRバス日勝線
ここまで空腹のまま進んできた僕は「とにかく何かを調達しよう」と売店に行ったのだが、何を血迷ったのかかっぱえびせんを買ってしまった。まぁ、ポテトチップスよりはいくらかましな選択だったかもしれない。

様似駅でスタンプを押した僕は、駅前にバスが到着していることに気づき、慌てて席を取りにいった。このバスは中央に大きな乗車扉があるタイプ。僕は扉から乗って目の前の席に座った。

さて、14日の夜からずっと続いていたいい天気はここで怪しい雰囲気になり始める。モワ~っとした霧が出始めたかと思ったらあっという間に雨粒が窓に着くようになった。「えりも」という町を通っていく。襟裳岬まではまだもう少しあるえりも町。ここからは少し高いところを走るのだが、雨が再び霧のようになり、時々開ける霧の晴れ間から見える海がとてもきれいだった。

しゃくなげ公園と過ぎると「次は~襟裳岬、襟裳岬です」と、カセットテープの案内が流れ、何人もの人が席を立って降りる用意を始めた。

襟裳岬~旧広尾駅

バスはどんどんと坂を下って襟裳岬の駐車場へ。先ほどまでよりはるかに濃くなった霧の中、かすかに灯台が見えたが、他に何も見るべきものが見つからず「えりもの春は(夏も)何もない」を実感してきた。しかし、その何もないところへ向かうべく僕以外のすべての乗客がバスを降りていき、その何もないところから帰ってきた人たちがたくさんバスに乗ってきた。

乗客総入れ替えとなったJRバス日勝線はさらに先をめざし、今度は広尾まで北上していく。道中、黄金道路というすごい名前の道を走っていくのだが、その名称についての簡単な解説が流れた。建設時にその地盤の弱さゆえに予算をはるかに上回る支出となったことからこの名称になったそうだ。今も昔も道路建設などの公共事業は無駄を指摘され、つつかれる対象になりやすいが、地元の悲願であったりして「すべてを効率や無駄で語る」ことはできないかもしれない。

さて、相変わらずどんよりとした空の色ではあったが霧が薄れて景色が見られるようになってきた。バスの窓を少し開けて海の写真を撮ろうとした僕だったがこの道はトンネルが多く、海岸にはテトラポットが多くて、結局一枚も撮らずに進み続けた。

ふと時計に目をやるともうそろそろ広尾駅、バスの終点が近づいていることに気が付いた。

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⇒ 【1988年8月18日】雨の中で旧広尾線沿いを行く

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