翌、18日。朝6時。
アホにならずにすんだ。ちょっと眠たかったがどうにか起きて準備を始めた。
フェリーくにがの出発まではまだ十分な時間がある。
せっかくだから僕はここでも自転車を持って行くことにした。
輪行袋を車に載せ、最低限の荷物だけを持って おき西郷港に向かった。
朝一番の島前行きフェリーくにが が、おき西郷港に停泊していた。
さっそく窓口で乗船券を購入した。
・・・島前(どうぜん)とは・・・
を簡単に解説すると、まず3つの島で構成している。
人口順に、西ノ島、中ノ島、知夫里島の3島。
船が真っ先に着く港「別府港」は西ノ島の東部の港。西部には浦郷港がある。
僕たちが行こうとしているのはこの西ノ島だ。
船はゆっくり岸を離れる。
未踏の地に行くのはちょっとワクワクする。
お隣の島というわりには結構遠く、時間をかけて別府港に到着した。
僕たちは観光船に乗って西ノ島の東岸をぐるりと回って北岸を通天橋まで行き、
船引運河を通って浦郷港に至るコースの切符を購入した。
観光船(といっても普通の釣り船クラス)は勢い良く走り出した。
水しぶきを上げて瞬く間に別府港は見えなくなってしまうほどだった。
最初に見えたのは三郎岩。
ちょっと昔流行った「だんご三兄弟」じゃないが、そんな印象の岩。
なんとなく、ちょっとかわいい。
外海に出ると船は結構揺れ始めた。それがまた楽しかった。
西ノ島の北岸は奇岩がたくさんあり、海の侵食による面白い地形もある。
その一つがこの赤壁だ。知夫の赤壁ほどの大きさはないが確かに面白い。
波による侵食が形作る自然の造形はダイナミック。
他にもたくさん奇岩を見たり岩のトンネルを通ったり、観光船を存分に楽しんだ。
そうして、コースの西の端、通天橋にまでやってきた。
ちょっと天気が悪くて残念。しかもこちらは完全に影。
とりあえず形だけはとらえたかな。って感じだった。
船は引き返し、途中にある船引運河を通って島の南側に出てきた。
右の方に回って浦郷港に着いた。
さて、ランチは簡単にパンで済ませた僕たち。
それから摩天崖(まてんがい)に向かうバスが丁度いいタイミングで出るとわかり、
とりあえずそれに乗り込んだ。
バスは摩天崖への上り口「国賀」バス停に向かった。
フェリーの名前にも選ばれている通り、ここ国賀海岸は隠岐の島随一の景勝地。
この付近には天上界と呼ばれるエリアもある。
その辺りを見てから通天橋のそばまで行ってみた。
先ほど観光船から見たあの場所だが、何とちょうど晴れてきた。
晴れてこそ、その美しさが映えて見える。ちょうどよく晴れてくれてよかった。
そしてここから一気に258mある摩天崖へと昇っていく。
長い長い草原の斜面を登るのはなかなかの重労働だがとにかく上がり始めた。
たくさんの牛や馬が放牧されている草原をひたすら自転車を押しながら登った。
ここの動物たちは人を恐れ、自分の方が弱いと思い込むようにされているらしい。
親友はちょっと体力に自身がないからバスで戻ると言って国賀バス停へと下った。
僕一人登ることになり、ちょっと恐る恐る牛たちの間を歩いて登っていった。
そうしてついに摩天崖のてっぺん、海抜258mの地点までたどり着いた。
ここまで、ロードレーサーである愛車エンペラーは乗れる状態ではなかったが、
下る道はきちんと舗装されていて走ることができた。しかも下りばかり。
摩天崖から見た日本海も、下り始めてから見えた浦郷の海も絶景だった。
下り坂の途中でどうしても立ち止まって写真を撮りたいと思った景色。
そして、坂を下り、東を目指して走っていった。
帰りの船が出るのは坂の下の浦郷港ではなく東の別府港だからだ。
一生懸命ペダルをこいでいると、前方に国賀発のバスが走っているのが見えた。
「お!あのバスに乗ってるんやな。追い越したろ。」
ますます力を入れてこいでいくとバスを追い越すことができた。
でもその直後に別府港に到着した。
久し振りにロードレーサーの本領を発揮できた。
別府港では30分ほどの余裕があり、待合室でテレビに見入っていた。
夏の甲子園ももう終盤に入っていたがこのとき画面に映っていたのは、
尽誠学園の伊良部秀輝だった。
力強い投球を最後まで見届けることなく、フェリーが到着したため船へと向かった。