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1988鉄道旅行★北海道の目次
室蘭本線を行く北斗星2号
列車は苫小牧駅を出発し、僕は部屋に戻った。
するとしばらくして車掌さんがやって来て鍵を渡してくれた。
そして「宇都宮までですね?」と言われ、「そうです」と言った。車掌さんとはそのまましばらく喋ってしまったのだが、最後に「どうぞごゆっくりお休みください」と言ってくださったのがなんとも嬉しかった。
そして再び部屋に戻り谷村新司の曲を聴いて外を見ていた。
ここはもう千歳線ではなく室蘭本線に入っている。もう3つ目の路線に入っていることになり、4つ目に入る長万部までこの線路を行くことになる。
僕は登別に着くまでの間あちこちと歩きまわった。
まず4号車・3号車の個室群のほうに行き、空いているところでちょっと見学した。「あんなに寝台券が取れなかったのに何でこんなに空いているところがあるんだろう?」と思ったが、まだまだ道内に停車駅がたくさん残っていることを忘れていた。
まぁ、見学と言うほど大したことはないけれどちょこちょことメモを取ってきた。それから部屋に戻って荷物の整理をし、記録したことを思い返しつつ記憶を整理していった。
登別駅につくと急いで降りて1番最後の車両に行った。
そしてそこで車掌さんに乗車証明の類があったらもらいたいと思って行ったが、そういうカードはなかったようだが、その代わりに「特急おおとり号記念乗車カード」という、はるかにレアなものをくれた。とても可愛いデザインだったし証明にもなるだろうと思ったからお礼を言っていただき、自分の部屋に戻った。そうしているうちに北斗星2号は東室蘭に着いた。
ここで見た東室蘭駅のホームは2度目だが、往路の急行はまなすではまだ午前4時半にもなっていない早朝のことだったので、ぼーっと青白い光がともっていた静まり返った駅のイメージしかない。
その同じ東室蘭に18時57分に再度停車。2分しか留まらなかったがしんみりした駅の雰囲気は今も記憶が鮮やかだ。
食堂車グランシャリオから予約者の夕食開始の放送がかかった。僕もお腹が空いていたけど予約をしていなかったので・・・というのは建て前で、実は札幌の観光バスに乗って残りのお金が苦しくなったので晩ご飯抜きにしようと思っていたので、食堂車にはいかなかった。
19時19分、伊達紋別に到着。そして19時31分に洞爺に着いたはずだが、この辺りはあまり記憶がない。もうすっかり日も暮れて夜の静寂の中を青い流れ星が行く、寝台特急らしさが全開のシチュエーションになってきた。
20時01分、長万部。ここまでくるといよいよ北海道とお別れの時間が近づいてきたんだなぁという実感が沸いてくる。室蘭本線ともここでお別れ。4番目の路線に入る。もっとも、4番目でありながら最初の路線と同じ函館本線だというのはちょっと面白い。停車は2分だけ。「おしゃまんべ」と書かれた駅名標がはるか後方へと流れ去っていくのを目で追いながらそこを離れた。
そうして寝台に横になってひとことつぶやいた。
「おなかすいたなぁ」
谷村新司の「遠くで汽笛を聞きながら」を聞きながら湾曲した窓から夜空を見上げ、列車は先へと進んだ。
厳しい空腹との闘い
しばらくして食堂車グランシャリオから再び放送が流れた。
車内販売のお弁当を食堂車で販売します とのことだった。僕は財布の中身と相談しながら明日の朝食分のお金を残すといくらまで使えるかを考えて「よし、もし600円までのお弁当があれば買おう!」と決意して部屋を出た。
いざ、決戦の時!待ってろよグランシャリオ!というような意気込みで向かった。
しかし、弁当はあっという間に売り切れてしまったらしい。これは寝台券を取るときにみどりの窓口で経験した10時打ち撃沈の再来のようだった。何というか、北斗星にまつわるあらゆるものがあまりにも時間との闘い過ぎて笑うしかない。
とはいえ、お弁当の値段が1000円だったことを聞いて「最初から買えなかったんだ・・・」と気付き、トボトボと部屋に向かった。空腹との闘いはこの後も続く・・・。
豪華寝台特急に乗る貧乏少年
20時27分、八雲に到着した。道内の停車駅は残すところ2つだけ。やけに寂しさを感じる。
それでももっと頭を支配していた感情は空腹である。これをどうやって解消・・・いや、軽減できるだろう?。「わ~れ~は行~く~。青白き~頬のま~まで~」と、すばるの歌詞が流れる中、このままでいたら顔面蒼白で倒れるんじゃないかと思えてきた。グランシャリオの営業時間は21時まで。残り時間もわずかになってきた。
「いったい何を食べられるん?」という疑問は一旦置いておいて食堂車に向かった。終了時間が近づいた車内に客の姿はなかった。きっともう皆さん満足して寝るまでの時間の余韻を楽しんでいるのだろう。
僕を迎えてくれたウェイトレスさんは女優の紺野美沙子さんによく似た優しい雰囲気の方だった。僕は緊張した面持ちでこう尋ねた。
「ここで食べられる一番安い値段のものは何ですか?」
詳しいメニューを見せてくれて「こちらのようになっております」とのこと。
僕の目に飛び込んできたものは「ライス:200円」だった。
「こ、これお願いします!」と言うとにっこり微笑みながら「かしこまりました。」と言って去って行かれた。ここで注文の確認などしなかったのはこの人の優しさだろう。
わずかな時間の後、「お待たせいたしました。」という言葉と共に「あの、これくらいしかなくてごめんなさいね」と言いながら味付け海苔を差し出してくれた。そしてライスの量も心なしか多めに盛ってあるように見えた。
四半世紀以上走った北斗星の運行でこのような注文をした人が僕以外にいたのだろうか?間違いなく最も安い注文金額だと思うが、まぎれもない貧乏少年の依頼にこんなに優しい対応をしてくださったことは最高の思い出の一つになった。白いご飯に味付け海苔を巻きながらおにぎりを5つ食べたような気持ちでこの日最後の客として夕食を終えた僕はおなかも心も満たされた。ウェイトレスさんに深々と頭を下げた後、自分の部屋に戻った。
北斗星2号はすでに森を出発し、道内最後の駅である函館を目指している。