心待ちにした夏の旅行シーズンがとうとうやってきた。
今年も鉄道旅行第一弾となるのは天文気象部の合宿。今年は南紀・串本だ。
今年も「山vs海」の攻防に敗れ、山に行けずに無口なS西先生も同行する。
8月1日早朝。
牧野高校天文気象部員のほとんどは、京阪電車樟葉駅、水島書房前に集合。
今回はOBの先輩たちも3人ほど参加、総勢16人の鉄道旅行いや、合宿だ。
蛇足だが、当時の京阪特急は樟葉駅は通過だったから乗ることはできず、
いつものように急行に乗って京橋駅に向かった。
中には牧野駅近辺に住んでいる部員もおり、彼女たちは牧野から普通に乗車。
そして枚方市駅で合流し、全員集合となった。
京橋駅で京阪電車からJR大阪環状線に乗り換えだが、ここで去年の再来!
青春18きっぷを3組購入し部員に配り、乗車券を不足分だけ買い足した。
そうして大阪環状線外回りに乗り、大阪城を眺め、森之宮電車区を見る。
そして通天閣に近づいた頃、天王寺駅に到着だ。
環状線ホームで103系を見送り、そこから阪和線の櫛型ホームへと移動する。
一番左端には381系特急くろしお号の姿がいつものように見える。
それを見ながら、少し前のこの場所を思い巡らす。
「ほんのちょっと前までは急行きのくに号が隣のホームにいたよなぁ」
さて、僕たちが乗るのは天王寺駅10時03分発の和歌山行き115H列車。
時刻表を見ながら「快速でも結構停まんねんなぁ」と思ったが、
意外と和歌山に到着するまで1時間はかからなかった。
和歌山に着くとすぐに乗り換えなければならない。
僕と新部長の享君は今回も輪行袋と旅行荷物を抱え、プレッシャーを感じていた。
もう慣れっこだとは言うものの、乗り換え時にはいつも緊張感がある。
しっかり心構えをしていたら大抵大丈夫!という慣例どおり、
4分の乗り換えも無事に完了。
11時03分に338M列車は和歌山駅を出発した。
鈍行列車で僕たちはボックスシートに座って思い思いの時間を過ごした。
真也と隆行は今年もいっぱいの漫画本が詰まったリュックを開く。
初合宿から3年目。少しも成長していない彼らがそこにいた。
紀勢本線338M御坊行きは、一つ一つの駅に停まりつつ進んでいく。
僕にとっては電車でこちらの方面に向かうのは初めてだ。
というのも、まだ4歳だった頃に家族旅行で白浜に行ったことがあるが、
その時はマイカー(おんぼろ軽自動車!)で、ハマブランカという所へ行った。
つまり、鉄道とは無縁の旅行だったのだ。
・・少し進んで海南駅。時刻表の上では何度も目にしている地名だ。
・・箕島駅。高校野球で何度も耳にしている地名だ。
・・湯浅駅。ここは母方のばあちゃんの出身地だ。
先日の、切符調達のために何泊も世話になったあのばあちゃんだ。
醤油の生産地として全国的に有名だと聞いていたが、
それは過去の栄光なのだろうか、電車の中からは感じ取れなかった。
列車は、12時11分御坊駅に到着。この列車はここまでなので乗り換えとなる。
それでここで約30分の休憩時間を過ごすことになる。
その時、1年部員の通称せばちゃんが、突然あることを言い出した。
「先輩!せっかくやから、下車印を押してもらいに行きましょうよ」
「・・・・・・?」
実は、この下車印を改札で押してもらうという習慣が僕にはなく、
切符にそれをいっぱい押してもらうことをコレクションにしている、
そんな趣味の人がいるということすら、その時に初めて知ったのだ。
そんなわけで、ここで初めて下車印を押してもらったわけだが、
それからちょっとしたブームが僕の中でも起こってしまった。
時刻はすでに12時30分。お腹がすいたのでお昼ごはんを買うことにした。
僕は貧乏性なのでパンをひとつと自販機のミルクティーを1本買った。
当時、コカコーラ社のミルクティーは紅茶花伝ではなく、ピンク缶の神葉だ。
そんなブランドがあったのを一体何人の人が覚えているだろうか、
さて、時間がもう少しあるので改札をちょっとだけ出て右手の方に行ってみた。
すると、そこに和歌山ならではの「梅干しの自販機」があった。
小さな箱に入った5粒入りで、一箱買ってみたが優しい味の梅干しだった。
さて今でもあそこにあの自販機はあるのだろうか。
ところで、ここ御坊駅は紀州鉄道という超短区間のローカル私鉄で有名。
現在であれば西御坊までの2.7㎞で日本一だが、
当時は日高川までの3.4㎞だったのでもしかしたら違うかもしれない。
参考記事:【まったり駅探訪】紀州鉄道・御坊駅に行ってきました♪
長いようでも休憩時間はあっという間に終わってしまった。
12時44分に後続列車340Mは到着、乗り込むとすぐ動き出した。
南高梅で有名な南部駅を過ぎると紀伊田辺が近い。
紀伊田辺駅に到着したのは13時28分。列車はここが終点だ。
次の列車は6分後の新宮行き2340M。
今度はちょっとだけの休憩だ。でもこの時間こそ鈍行鉄道旅行の醍醐味だと思う。
おっと、もちろんここでも下車印を押してもらわなければ・・・・。
紀伊田辺駅の6分の乗り換え時間を使って休憩を取る天文気象部一行。
中には2度目の昼ごはんをKIOSKで調達する食いしん坊もいたが、
僕を含め数人はこの旅行中2度目の下車印を押してもらいに行った。
急いで駅に戻り、改札を通り抜けてみると、特急くろしお号の姿が見えた。
当時としては唯一の振り子電車381系。いつみても車体の低さが印象的だ。
その発車を見送って、僕たちが乗る電車のところへ向かった。
2340M。新宮まで行く列車だ。
13時34分。定刻通りに列車は出発した。
2340M列車はこの後、白浜、周参見、有田を通り、ついに串本に近づく。
天文気象部一行はこうして鉄道旅行の往路を完了した。
そうだ、合宿中は一切鉄分のない、半島での生活なのだ。
僕と享君はみんなより一足先に席を立ち、輪行袋をほどきながら到着を待った。
ドアの前で輪行袋を片に掛けて立っていると駅のホームが見えてきた。
15時18分、予定通り串本駅到着。
はるばるやってきた、本州最南端の駅、紀勢本線串本駅。
駅前には黒飴の有名ブランド「那智黒」の大きな看板が目に入った。
串本駅から潮岬まで、みんなはバスに乗って移動する。
バス停の時刻表を見てみると15時37分発のバスがあると書かれている。
自転車輪行部隊の僕と享君は改札前の端のスペースで組み立て作業開始した。
ふと見ると、先ほどまで乗っていた新宮行きの電車はまだ停車したままだ。
串本駅では多くの列車がちょっと一服していくようだ。
その様子を横目にみながら、僕たちの自転車が着々と形になっていく。
ペダル・・・サドル・・・完成! と同時に列車は出発していった。その間約8分だ。
隣りで作業していた享君も完了し、2人はみんなより一足先に串本駅を後にした。
串本駅から潮岬まではあちこちに案内看板があるので迷うようなことはない。
それでも、急ぐ理由もないので景色を十分味わいながらのんびり進むことにした。
国道42号線を渡ると一本だけ道が平行し、あとは海。 強い磯の香りがした。
「僕、この匂い嫌いやないで」 「けっこういい匂いですよね」
そんな短い言葉を交わし、国道の裏通りを進みスピードをあげていった。
自転車で走りながらふと時計に目をやると「3時37分」。
ちょうど天文気象部一行が乗るバスが串本駅を出発する頃だ。
ぐんぐん進んでいた僕たち二人は潮岬への道中の半分まで来ていた。
潮の香りがいっぱいに漂う潮風を浴びながら、本州最南端の地を目前にしている。
坂を越えて海が見えてきたころ、遠くに浮かぶ「さんふらわあ」が見えた。
太平洋上を悠然と進んでいくその姿を見ながらあらためて最南端を感じた。
そして潮岬観光タワーに到着。民宿はそのすぐ東側にある。
僕たち2人は天文気象部一行がバスで到着するまでの間待つしかなく、
潮岬観光タワー前の草の広場で寝転んで時間をつぶした。