鉄道旅行記

【1986年8月】天文気象部・伊勢志摩合宿の旅

1986年8月1日。
夏真っ盛りの中、牧野高校天文気象部一行は、朝8時に京阪樟葉駅に集合。
三重県の伊勢志摩・大王崎での合宿である。

天体望遠鏡と赤道儀を抱え、星座早見表だの天文年鑑だのを鞄に入れ、
ウォークマンを腰につけて急行電車に乗り込んだ。

同学年の部員「真也」は、重そうなかばんを担いでた。
「何持って来たん?」と、中身を見るとビッシリ詰まったマンガ本が現れた。
「お前・・・・何しに行くつもりやねん!」

さて、現地へのルートだが、京阪電車・丹波橋駅で近鉄に乗換え、
鵜方駅まで行く際、一般的には近鉄西大寺駅から特急に乗るのが常套手段。

しかし、8月1日。
繁忙期だから混み合う!との読みから、僕は余計な事を言い出してしまった。
「このまま近鉄八木まで行った方が、大阪発の特急もあるで。
そのほうが乗れる確率が上がるんちやう?」

一見なるほど!の意見だ。皆も賛成してくれた。
近鉄鵜方駅まで行く特急の選択肢を増やすつもりで八木駅へ。

◆選択肢は増えず!

ところが!おっとどっこいの結末が待っていた。
八木駅の窓口で特急券を求めたところ、「昼過ぎやね」と言われたのだ。

今はまだ10時。
乗れる確立が上がると思われたのに全然ダメだったのには訳があった。
理由【1】大阪発の賢島行きは八木駅を通過してしまう。
  【2】大阪発で八木に停車する特急は鳥羽駅までしか行かない。
  【3】結局京都発の特急しか選択肢はない。
これではどうしようもなかった。
さっきの西大寺でちょっとでも早い時刻に買えばよかったかも。

そんなわけで2時間に渡り、八木駅のホーム上で、通過する賢島行きと
停車する鳥羽行きを何本も見送り、僕たちが乗る京都発賢島行きを待ち続けた。

その間、一瞬だけ盛り上がった。それは修学旅行車あおぞら号が来たのだ。
肌色に赤の太いラインがあるところが国鉄の特急電車に似ていて、親しみ深い。

そうして長い2時間を過ごし、僕らの乗る列車がやってきた。
ビスタカー。当時の近鉄特急の代名詞ともいえる車両だ。

◆近鉄特急が行く

動き出した列車の中で僕は外の風景が気になっていたのだが、
ここはやはり合宿なので、みんなとの遊び、ばばぬき、大富豪、ページワンなど、
トランプで遊ぶ方に集中せざるを得ない状況、鉄道満喫は半分あきらめた。

近鉄特急はどんどん進み、青山高原や伊勢中川、松阪と進んでいった。
櫛田川、宮川と清流を越えて走る。

しかし、僕の血が騒いだのは伊勢市駅が見えてきた頃。
キハ58やキハ47など、そこはプチ・ディーゼル王国が目の前に広がっていた。
「やっぱり国鉄の雰囲気がええわぁ」

ここは近鉄と国鉄の乗換駅で、目の前には三交百貨店があるなどターミナルだ。
とはいえ、近鉄にとっての伊勢市中心駅はここより隣りの宇治山田駅だ。
駅舎の立派さも随分違っている。
そして次の駅は五十鈴川駅。ここで降りるとおかげ横丁があり、赤福本店も。

列車が鳥羽駅に到着しようとする頃、急な坂を下りながら鳥羽湾が見えてきた。
そしてなんと、2面4線のホームすべてが特急車両で埋まる現象が・・・。
やはり、鳥羽駅折り返しの特急が多いからに違いない。

鳥羽駅周辺は観光ホテルや保養所がたくさんあるようだ。
夏休みだけあってものすごい賑わいを見せている。

それとは対照的に国鉄参宮線ホームは寂れた雰囲気。
いかにもローカル線の終端駅の雰囲気が漂っている。

さてここから先は近鉄も単線となり、急にローカル色が強くなる。
左側に鳥羽水族館が見える路線をゆっくり進んだ。
右に古い町並み。海と伊勢湾フェリーの渡船場が見える。
でもやがて再び内陸部をスピード上げて走り出した。

山に囲まれた地域を走り続けていたが、志摩磯辺が近づく頃に景色が一変する。
リアス式海岸の海と入り江が見え、フェニックス等、少し南国風の印象も感じる。
今では志摩スペイン村があるこのあたり。
当時はまだ志摩半島への経路に過ぎなかったが、いい雰囲気の素質があった。

◆到着した近鉄鵜方駅

そうしてついに列車は志摩半島の中心駅近鉄鵜方駅に到着した。
ここから列車は賢島に向かうが、ある人達はバスや車を利用して浜島や南島へ、
そして僕たちの向かう阿児・大王・志摩町方面へと分かれる分岐点なのだ。

到着したホームには上り列車を待つ人たちが少しいた。
その中に、見たことがある面々が・・・。
隣りの高校に通う中学時代の級友が二人いたのだ。

二人は美術部員で、ぼくたちの目的地・大王町に今日まで合宿でいたらしい。
絵かきの町大王としても知られている所なのだ。

僕は鵜方駅のホームを出てすぐ、改札を左に曲がり、観光案内窓口に行った。
そしてそこで志摩地方の観光ロードマップをもらった。
実は、数日前にサスペンスで見た刑事役の水谷豊さんの行動をまねたのだ。
部員の中にそんな細かい芸を分かってくれる人はいなかった。残念。

そうして僕たち一行は御座白浜行きのバスに乗り、大王崎を目指した。
正確には大王崎下の波切漁港の一つ手前、大王小坂バス停。
バスはのんびり走り、30分以上かかって到着した。

出発して約7時間、美味しそうな名の民宿、大福屋にようやく到着。

◆本当に天文気象部の合宿か?

伊勢志摩・大王崎。灯台がそびえ立つこの地は風が強く、夏でも心地よい。

さて、予定外に長時間の旅で疲れていたはずなのに、
「海が近い」と聞くと心が騒ぎたち、みんなで行ってみようということになった。

又、灯台が見える小高い丘で「今晩、ここで見よう」と天体観測ポイントを決めた。
しかし、この後事件が起こるのである。

とりあえず民宿大福屋に戻り、夕飯を戴いた。確かに美味かった。

そして、牧野高校天文気象部合宿第一日目の夜が来た。
メインイベント、天体観測の準備へ。
天体望遠鏡の赤道儀の極軸あわせをした後、
S先輩 「アイピース、誰が持ってんの?・・・・・」
僕 「あれ・・・・・・・・・・」
部員一同 「ん?・・・・・・しらんなぁ・・・・」
S先輩 「えぇ~~!!おい、合宿やぞ!ここまで何しに来たと思ってんねん!」

そうなのだ。アイピースつまり望遠鏡用接眼レンズを忘れてきてしまったのだ。
というわけで仕方なく、肉眼での天体観察と双眼鏡での観測に終始した。

先輩達の写真撮影も「星雲・星団」はあきらめ、広範囲の星座撮影に切り替えた。
やがて、僕たちのショックをあざ笑うように雲が出始めたので片付けた。

能天気な真也たちは「曇ったらアイピースがあっても見えへんで。」と、言っている。
そして民宿に戻って漫画を読み始めた。「ばかやろお・・・・」

◆合宿2日目。

合宿2日目の朝、僕は異様に朝早く目が覚めて起きた。

それで民宿から灯台までジョギングを始めようとしたのだが、
ふと粗大ゴミの山に、ハンドルがグニャッと曲がって捨てられた自転車を発見。

僕はその自転車を拾って散策を始めた。
すると近くに中学校を見つけた。そこに人影が。

ちょっと思い立って、
「すみませ~ん。僕は大阪の高校の天文部員で、合宿で大王崎に来たんですが、
忘れ物をしてしまいまして・・・アイピース、お借りできるものありませんか」

と、よくそんなこと言ったものだと自分でも思う。とにかく必死だったのだ。
結局そこの学校にはアイピース自体なくて、お借りできなかった。

でも、こうなったらもう一軒学校を訪ねてみようと思い、隣の集落を目指した。
田舎のことだから、「隣り」と言ってもかなり遠い。

「船越」というその集落へは長い坂を下っていった。帰りが恐ろしい。
でも自転車に乗っている間に考えた。
「アイピースがなくても顕微鏡の接眼レンズでもいけるかも・・・・・」
というわけで、船越中学校ではその両方を尋ねてみた。

応対してくださったのは親切な教頭先生だった。
「よく分かりました。顧問の先生が直接来て下さるのなら、
顕微鏡の接眼レンズを今夜一晩お貸ししてもいいですよ。」

こうして2日目の夜はいくらか天文気象部らしい活動が出来ることになった。
僕は朝食を食べそびれ、カップ焼きそばを大王小坂バス停近くのお店で購入。
実はこの時が生まれて初めて。
間違えて、先にソースを注いでからお湯を注いでしまった。

かなり薄味の焼きそば完成。

その後灯台見学とおみやげめぐりをした。
余談になるが、粗大ゴミの自転車は・・・・・。

実は、大王崎周辺の波切集落より船越の方がゴミ回収順序が遅く、
見事そこで処分することが出来た。
天文気象部合宿2日目の夜は色々な見所を押さえることが出来た。

木星の四大衛星や土星の輪はもとより、いくつかの星雲や星団も見られて満足。
望遠鏡用のアイピースではなく、顕微鏡用の接眼レンズだったので、
写真撮影には向かなかったが、なんとか合宿に来たという雰囲気になった。

そうして観測を終えてからみんなで花火に興じ、民宿に戻った。

◆合宿3日目。

明くる、8月3日。

顧問の秋元先生とk先輩が、お借りしたレンズを返却しにバスで船津へ。
その間に荷物を整え、二人が戻り次第バスで大王崎を後にした。

近鉄鵜方駅までの国道は太陽がさんさんと降り注ぐ真夏の海水浴ロードだった。
鵜方駅からは行きと同じビスタカーで、しかし今度はちゃんと西大寺まで
特急券を買った(八木で降りる理由など全くない!)。
残念ながらこの度も二階建て車両ではなかったが。

こうしてアクシデントを乗り越えてバタバタと過ぎた前菜 鉄道旅行は幕を閉じた。

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